【開業医のためのお金の教室⑥】手取り年収が600万円ふえる、概算経費について(超重要!)

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こんにちは、shiro-mameshibaです。

 

気づいたら、市場はいつの間にか急落していて、あっという間にまた元通りとなりました。

 

下手に動かなくて正解でした(笑)

 

さて、今回は、開業医にとって、とても大切な概算経費の特例についての説明です(超重要!)。

 

概算経費とは

 

まず、概算経費とは、クリニックの社会保険診療自由診療以外)に実際にかかった経費(実経費)ではなく、社会保険診療収入から、決まった計算式で、経費をおおよそに概算した経費(概算経費)を、実際の経費として控除できるものです。

 

 

つまり、その年にかかった経費を、実経費ではなく、売上(社会保険診療)から計算するみなし経費として控除することができる特例です。

 

 

なぜこの概算経費が大切かと言うと、多くの場合で、実経費よりも概算経費のほうが、経費を高く見積もることが可能であるため、その分、数100万~規模で税金を節税することが出来るためです。

 

 

概算経費の条件

 

概算経費が適応される条件は、

 

 

社会保険診療収入が5千万円以下、自由診療も含めた収入が7千万円以下」の場合のみです。

 

 

この条件を1円でも超えると、概算経費は使えません

 

 

社会保険診療収入5,000万円のクリニックの場合

 

 

一例であげますと、社会保険診療収入5,000万円のクリニックの場合、

 

 

実経費で計算すると、院長(開業医)の手取りは約1,780万円となります。

 

概算経費で計算すると、院長(開業医)の手取りは約2,440万円となります。

 

 

 

つまり、概算経費で計算すると、手取り額として、約660万円ほど、毎年収入を増やすことが可能となります。

 

 

 

 

概算経費の計算方法

 

ここで、もう少し詳しく、シミュレーションを行います。

 

上記の通り、社会保険診療収入5,000万円のクリニックとします。

 

 

(なお、今回の計算では社会保険や小規模企業共済等掛け金などの控除は、説明が分かりにくくなるため、省略します。)

 

実経費

 

社会保険診療収入5,000万円のクリニックでは、通常、売上の4割の2,000万円ほどが、実経費としてかかります。

 

 

この実経費には、職員の給料、土地・建物・医療機器のリース代などが全て含まれます。

 

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この場合、上図の通り、5,000万円-2,000万円=3,000万円が純利益として計算され、課税されます。

 

 

個人事業主の場合、給与所得控除がありませんので、この3,000万円に以下の所得税がかかります。

 

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所得税)3,000万円✕40%-2,796,000円=920.4万円

 

 

となります。

 

 

これに市民税3,000万円✕10%=300万円が課税されます。

 

 

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計算の結果、純利益3,000万円に対して1,220.4万円が課税されますので、上図のとおり、最終的に手元に残る金額は1779.6万円となります。

 

 

概算経費

 

概算経費の場合、経費の計算は以下の計算式が当てはまります。

 

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つまり、社会保険診療報酬が5,000万円だった場合のみなし経費(概算経費)は


 

5,000万円✕57%+490万円=3,340万円

 

として計算されます。

 

 

すると、純利益(みなし利益)は、下図のとおり、計算上5,000万円-3,340万円=1,660万円となります。

 

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この1,660万円に対して、所得税と市民税が課税されます。

 

 

所得税)1,660万円✕33%-153.6万円=394.2万円

 

市民税)1,660万円✕10%=166万円

 

 

合計は394.2万円+166万円=560.2万円となります。

 

 

最終的に手元に残る金額は、下図の通り

 

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売上5,000万円から、実経費2,000万円と税金560.2万円を引いた差し引き2439.8万円が残ります。

 

 

 

実経費と概算経費の手取りの差額は

 

 

2439.8万円ー1779.6万円=660.2万円

 

 

となります。

 

 

つまり、概算経費を使うと、同じ経営をしているはずなのに、毎年660万円も手元に残る金額が変わってくるのです!

 

 

社会保険診療収入5,000万円までにあえて抑える事が重要

 

注意点は、前述の通り、「社会保険診療収入が5千万円以下、自由診療も含めた収入が7千万円以下」を1円でも超えると、概算経費は使えないことです

 

 

この概算経費の特例を使用すると、実経費で、社会保険診療収入5,001~7,000万円のクリニックの院長の手取り収入よりも、概算経費で、社会保険診療収入5,000万円のクリニックの院長の手取りの方が高くなってしまうという、なんとも不思議な逆転現象が起きてしまいます。

 

 

 

つまり、下手に頑張って、社会保険診療収入を5,000万円以上を目指すより、あえて、社会保険診療収入を5,000万円以下をぎりぎり目指したほうが、所得が向上するのです!

 

 

 

なお、この概算経費の特例は、かなりの医師優遇税制(歯科含む)ですので、将来的には、なくなる可能性が高いと言われています。

 

 

社会保険診療報酬5,000万円

 

さて、通常のクリニック経営で、そもそも社会保険診療報酬で5,000万円を超えるのでしょうか?

 

年間5,000万円ということは、1か月あたり約400万円の売上となり、月20日の診療日であった場合、1日あたり20万円の売上となります。

 

 

小児科の1患児当たりの平均単価は約5,000円ですので、1日の売上20万円を超えるためには、20万円÷5,000円/人=40人を診察することになります。

 

 

小児科であるならば、1日あたり、午前午後あわせて40人の診察というのは、まずまず平均的な診療人数と思われます。

 

 

むしろ、コロナ前であれば、午前診療だけで40人を超えることも多かったでしょう。

 

 

つまり、通常の小児科クリニックであれば、1年間、フルに診療すると、おそらく社会保険診療報酬5,000万円というのは、まず問題なく超えてしまう額であることが分かります。

 

 

ですので、現実的にこの概算経費が使えるのは、年度の途中で開業するであろう、開業初年度のみの事が多いかもしれません。

 

 

 

しかし、先に述べたとおり、実経費で、社会保険診療収入5,001~7,000万円の手取り収入よりも、概算経費で、社会保険診療収入5,000万円の手取りの方が高くなってしまいます。

 

 

ですので、開業して、がむしゃらに仕事をするよりも、多少仕事をセーブして、社会保険診療収入5,000万円以内に納めたほうが、収入の面でも、労働条件の面でも、むしろ恵まれるのかもしれません。

 

 

ここは、開業のモチベーションと理念にも関わってきますので、どちらが良いとは一概にいえない部分ですね。

 

 

自由診療

 

 

また、社会保険収入に対する自由診療の割合は、科によってかなり異なります。

 

 

小児科であれば、乳幼児健康診断や予防接種がありますので、自由診療の占める割合はかなり大きいです。

 

 

だいたいですが、一般診療報酬(社会保険診療):自由診療報酬=5:3くらいとされています。

 

 

ですので、「社会保険診療収入が5千万円以下、自由診療も含めた収入が7千万円以下」の条件のうち、「自由診療も含めた収入が7千万円以下」に抑えることが、意外と難しいと思われます。

 

 

 

ただし、この条件をクリアさえできれば、概算経費で得られた社会保険診療報酬+自由診療報酬で、手取り収入3,000万円~を目指すことも、十分可能となるでしょう。

 

 

実経費を下げる

 

 

また、概算経費の場合は、診療報酬からの計算式から自動的に求められますので、実経費がいくらであっても、みなし経費は変わらないという点にも着目が必要です。

 

 

 

つまり、概算経費を使用できるのであれば、実経費となる従業員の数を削減し、(看護師)常勤2人+非常勤1人→常勤1人+非常勤1人に替える、(受付)2人→1人に替えるといった方法で、実経費を下げることができれば、手元に残るお金を増やすことが出来るのです。

 

 

また、開業に最も重要なのは、集患できる立地ですが、あえて、そこを1日あたり40人程度にギリギリ予測でき、かつより賃料が安い土地・建物を選ぶといった方法も有効でしょう。

 

 

また、クリニックの売りとして使える高額な医療機器があったとしても、集客にあまり効果がないのならば、あえて、それを採用しないと行った手法も一つかもしれません。

 

 

 

つまり、概算経費を利用するのであれば、徹底的に実経費を抑えることで、手元に残る金額を増やしていくことが出来るのです。

 

 

法人成りした年度も適用可能

 

 

また、医療法人化した場合、1月1日から法人化することはむしろ稀で、年度の途中で法人化することが多いと思われます。

 

 

この、法人化して、個人事業主として最後の年度に置いては、法人化する前までの売上を、その年度の個人事業主としての最後の売上とすることが可能となりますので、たとえ、前年の年間社会保険診療収入が5,000万円を超えていたとしても、法人成りする最後の年度は、概算経費が適用することが可能となります。

 

 

つまり、月間社会保険診療収入が1,000万円、年間社会保険診療収入が12,000万円のクリニックだった場合、その年の5月まで(社会保険診療収入が5,000万円を超える前)に法人成りすれば、その年度に関しては、概算経費の適用を受けることができるため、法人化する前の、最後の一儲けが可能となるのです!

 

 

むすびに

 

 

この概算経費があるため、社会保険診療収入5,001~7,000万円という一番損するゾーンにいる開業医になることは、なんとか避けたいものですね。

 

 

あえて、余計な実経費をかけずに、売上を概算経費内に抑えて、QOMLを追求するということも、一つの賢い方法なのかもしれません。

 

 

しかし、この概算経費が将来的に廃止されるかもしれないということも、十分に念頭においておいたほうが良いでしょう。

 

 

 

結局、一生懸命働いて、開業初年度を社会保険診療収入5,000万円以内、次年度からは7,000万円以上を目指すというのが、自分のやりがいと報酬の面からは、一番良いのかもしれません。

 

 

それでは皆さま、良い開業を!