【開業医のためのお金の教室①】小規模企業共済について

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こんにちは、shiro-mameshibaです。

 

以前記事にした事がありますが、私は現在、勤務医ですが、数年後に開業することを考えており、そのため各方面のお勉強中です。

 

shiro-mameshiba.hatenablog.com

 

 

今回から、自分のための備忘録として、また、これから開業を考える勤務医向けに、様々なお金の損得分岐点を計算してみたいと思います。

 

まずは、小規模企業共済についてです。

 

開業医のための3つの社会保障制度

 

勤務医をやめて開業医になると、厚生年金から外れ、国民年金第1号被保険者となるため、その分の年金の差額を埋める必要が出てきます。

 

また、退職金の積立も新たに必要となります。 

 

 

その代替として用意されている社会保障制度が、①小規模企業共済と②iDeCo(第1号被保険者として)、または③国民年金基金です。

 

 (※従業員向けには、中小企業退職金共済中退共という制度もあります。)

 

拠出可能額 

 

小規模企業共済1,000~70,000円/月まで拠出が可能です。

 

②第1号被保険者としてのiDeCo、または③国民年金基金(及び付加保険料)は、いずれか、もしくは両者の併用で合計68,000円/月までの利用が可能です。

 

 

つまり、①~③の併用で、最大138,000円/月(年間1,656,000円)まで、所得から全額控除が可能となります。

 

 

今回は、この①小規模企業共済について説明します。

 

①小規模企業共済について

www.smrj.go.jp

 

国の機関である中小機構が運営する小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。

 

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。

 

加入資格

 

加入条件は、「常時使用している従業員数が5人以下」の場合に加入出来ます。

 

((注)常時使用する従業員とは、個人事業主、共同経営者(青色事業専従者のこと。2人まで)、パート従業員、アルバイトなどを除いた正社員として雇用されている従業員を指します。配偶者が青色事業専従者なら、従業員数に入りません。加入条件は共済加入時のみに適用され、その後、従業員の数が増加して要件に該当しなくなったとしても、共済契約は続けられます。)

 

掛け金

 

月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定が可能で、加入後も増額・減額できます。確定申告の際は、その全額を課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。

 

共済金は、退職・廃業時に受け取り可能で、満期や満額はありません。

 

受け取り方

 

共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能です。

 

一括受取りの場合は退職所得扱いに、分割受取りの場合は、公的年金等の雑所得扱いとなり、税制メリットもあります。

 

 

退職所得扱いの税金の計算は、後ほど解説(※)します。

 

 

今回は計算しませんが、公的年金等の雑所得扱いとして受け取る際には、税金としての負担はともかく、リタイヤ後の国民健康保険額が増加してしまうという大きなデメリットがあるため、この受け取り方はおすすめしません。

 

 

自分で資産運用しない

 

小規模企業共済では、iDeCoのように、自分で拠出する銘柄を選ぶのではなく、拠出したお金を独立行政法人中小企業基盤整備機構が運用するため、勤務医にとっての厚生年金とほぼ同じような仕組みになっています。

 

現在の「予定利率」は、1.0%となっています。

 

(万一、今後インフレが起きた場合には、実質的に目減りするリスクはありますが、それ以上の税金控除のメリットが期待できます。)

 

配偶者(青色専従者)も加入可能

 

青色専従者である配偶者がいた場合、配偶者も加入できる点もとても重要です。

 

つまり、配偶者も加入した場合は、夫婦合算最大で1,680,000円/年もの所得控除が可能になります。

 

なお、 配偶者が加入した小規模企業共済の掛け金は、配偶者本人の所得から控除されます。

 

事業主(開業医)の所得から所得控除は出来ませんのでご注意ください。

 

また、当然ですが、配偶者が、同じクリニックの青色専従者ではない、普通のサラリーマンだった場合や、無職(専業主婦含む)だった場合は、そもそも加入できません。

 

 

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独立行政法人 中小企業基盤整備機構より)

 

 

上の表の通り、開業医(夫)が課税所得金額1000万円/年、妻(配偶者)が課税所得金額400万円/年だった場合、満額(7万円/月)を拠出したときの節税額は、(夫)367,000円+(妻)241,300円=608,300円/年もの節税が毎年可能となります

 

 

また、医師の課税所得は、通常ならば1,000万円以上であり、累進課税が40%(1800万円~)、45%(4000万円~)だった場合、市民税10%と合計して、それぞれ、掛け金の50%(最大42万円)、55%(最大46.2万円)もの所得控除が可能となります。

 

 

それに加え、掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で、事業資金等を借り入れることができる点もメリットです。

 

独立行政法人 中小企業基盤整備機構HPより)

 

 

法人成り(医療法人化)時の脱退について

 

また、大切な点として、医療法人には加入資格がありません

 

そのため、医療法人化した時点で廃業扱いとなり、小規模企業共済は解約されてしまいます。

 

ただし、加入から1年以上経過していれば、医療法人化しても拠出額の元金を下回ることは有りません(加入1年以内は掛け捨てのため)。

 

法人化による廃業時の払戻金は準共済金(H22.12までに加入した場合は共済金A)に該当し、その時点で拠出額と同額(加入期間20年未満の場合、共済金A・Bのような利息がつきません。)が払い戻され(準共済金では一括のみ。共済金Aでは、拠出額合計が300万円以下では一括のみ、300万円以上では分割受け取り可能(公的年金等の雑所得扱い)。)、退職金扱いとなり、以下の計算式の課税がされます。

 

退職所得にかかる税金の計算(※)

 

 

(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額

 

 

退職所得控除額は、勤続20年以下は40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)、20年超では、800万円 + 70万円 × (勤続年数- 20年)となります。

 

 

20年を超えると、退職所得控除がぐっと上がります。

(つまり、退職金制度は、長年、1企業で働き続けた人を優遇する制度です)。

 

 

準共済金では、加入12ヶ月未満では掛け捨て(共済金Aでは6ヶ月未満)となりますが、開業してたった1年で医療法人成りすることはないでしょうから、まず考えなくて良いことだと思います。

 

 

小規模企業共済を年84万円満額(または年40万円以上)拠出する場合には、無税とは言えませんが、それでもそのまま累進課税で半分持っていかれるよりは、だいぶお得(満額拠出でも、拠出額の1/4程度の課税金額に、(他の所得から分離して)所得税・市民税が課税される)になるはずです。

 

シミュレーション 30年加入 84万円/年満額の場合

 

まず前提として、35歳で開業、65歳でクリニック閉院した場合のシミュレーションを行います。 

 

シミュレーション通り、30年間、84万円/年を 満額納めた場合の退職所得に掛かる税金を計算します。

 

拠出金は、84万円×30年=2,520万円ですが、ここで1%の利息がつきますので、退職金総額は3,043万円になります。

 

これを、上記計算に当てはめると

 

(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 =(3,043万円ー(800万円+70万円×10年))=(3,043万円ー1,500万円)× 1 / 2=771.5万円(退職所得の金額)

 

となります。

 

 

ここに、他の所得から分離して、以下の表の所得税が掛かるため、

 

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上記の表に当てはめて計算(復興税2.1%は除外)すると、

 

771.5万円✕0.23ー63.6万円=113.8万円

 

が、退職金にかかる所得税になります。

 

 

これに、市民税(10%)=771.5万円✕0.1=77.2万円が別に徴収されるため、所得税と市民税の合計は

 

 

113.8万円+77.2万円=191.0万円

 

 

この191万円が、最終的に退職金にかかる税金となります。

 

 

退職金総額3,043万円から計算すると、僅か6.3%の税率となります。

 

 

通常通り、給料から課税されていた場合の所得税+市民税は、医師であれば、累進課税で本来43%~となるはずですがら、いかに退職金制度が優遇されているかがお分かりになるでしょう。

 

 

同時に、いかに900万円を超える給与所得が冷遇されているかも分かるでしょう(笑)

 

 

(余談ですが、官僚が給与を控えめにして、その分、莫大な退職金をもらえるようにしているのは、この税制のためです。そして、天下りにより、5年毎に、退職所得控除の復活を待って、とても低い税率の退職金を何回ももらうことが出来ます。勤務医は、転勤ばかりで退職金はほとんどありませんので、その恩恵は全くありません。)

 

注意点(任意解約について)

 

ただし、掛金納付月数が、240か月(20年)未満で任意解約をした場合は、掛金合計額を下回りますので注意が必要です。

 

また、同様に大切な点として、65歳未満での任意解約等では、退職所得扱いではなく、一時所得扱いとなるため、掛金の総額を収入から控除することはできなくなります。

 

一時所得の税率は、その所得金額の1/2に相当する金額を、給与所得など他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、累進課税に従って、納める所得税額を計算しますので、医師では通常、かなりの高税率となってしまいます。これに対し、退職所得は、原則として他の所得と分離して所得税額を計算しますので、税制上、とても有利になっています。)

 

 

ただし、これはあくまで任意解約の場合ですので、閉院(医療法人成り含む)による脱退は退職所得で扱われます。 

 

 

その他、解約手当金の金額や解約年における他の所得状況によっては、新たに高額の納税が発生する可能性もありますので注意が必要です。

 

 

ですので、たとえ資金繰りが苦しいからと行って、途中で脱退(一時所得として受け取り)することはお勧めできませんので、拠出額を最小にしても、廃業までは拠出を継続するのが良いでしょう。

 

 

法人成りでも、加入していて良い

 

以前のように、法人成りした際の脱退時に支払われる共済金が、共済金A(利息がつく)ではなく準共済金(利息なし)になってしまったのはやや痛手ではありますが、この小規模企業共済の要は、利息ではなく、払い戻し時に退職金扱いとなる控除にこそあります。

 

 

つまり、開業し、将来的に医療法人成りを検討している方にとっても、小規模企業共済解約金は退職金として計算され、その加入期間分の所得税が控除されるため、途中解約(医療法人成りで廃業扱い)しても損はありません(院長の事業所得としてそのままもらうときよりもかなり節税になる)ので、小規模企業共済は、開業医にとって、加入必須の節税方法と言えるでしょう。

 

 

また、次回に解説しますが、法人成り後、15年以上経過してからならば、iDeCo受取時の退職金控除枠も復活するため、法人化するならば、iDeCo受け取り予定の15年以前をおすすめします。

 

 

ただし、中小機構HPの注意書きには、『法人成りした開業医が、本業の事業所得のほかに、市町村から委託を受けて行った定期健診の報酬による給与所得がある場合、小規模企業者として加入できます』とあるため、救急診療のバイトや学校検診の報酬がある場合は、法人成り後も、もしかしたら、引き続き加入できるかもしれません?詳細は、担当の税理士にお聞きください。

 

上記注意書きは、個人事業主(法人成り前)であり、給与所得(市町村からの委託)があった場合でも、加入できるという説明であり、法人成り後の説明ではありませんでした。なので、法人成り後は、小規模企業共済を継続できません。

 

 むすびに

 

以上のように、小規模企業共済は大変有効な節税方法ですが、この存在自体を知らない、配偶者も加入できるのを教えてくれない税理士もいるそうなので、税理士選びの際の目安の一つになるでしょう。

 

 

だいぶ長文となりましたが、この制度をうまく活用するだけで一財産(✕配偶者分)になりますので、この制度を加入しない個人事業主は非常にもったいないと思います。

 

 

次回は、②iDeCo(第1号被保険者としての)についての記事とする予定です。

 

 

 

それでは皆さま、よい開業を!

 

 

 

上記内容は、2021年1月7日時点での記事です。今後の税制改正により、内容が異なる可能性があります。

 

まだ勉強中のため、間違いもあるかもしれません。

 

詳細は、担当の税理士に必ずご確認ください。

 

 

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