【開業医のためのお金の教室⑦】クリニック建物は、自分で建てよう!

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こんにちは、shiro-mameshibaです。

 

 

医師が開業する際に、最もコストがかかるのは、地代クリニックの建築費の2つです。

 

 

つまり、この2点が開業の成功を左右すると行っても過言ではありません。

 

 

その2つに関して、自前で用意する、人から借りる、という選択肢がそれぞれありますが、お勧めは、『土地は借りる建物は自前で建てる』、という戸立開業です。

 

クリニックの開業方法

 

今回は、大都市圏でのテナント開業は想定していません。

 

主に、郊外などで、新たにクリニックを新規戸立開業する方向けの内容です。

 

 

クリニックの戸立開業の方法としては

 

 ①土地も建物も自前で用意する
 ②土地は借りる、建物は自前で用意する
 ③土地も建物も借りる(建貸方式)

 

の3パターンが存在します。

 

 

結論から言うと、最終的な実質コスト(クリニック売上に占めるコスト)は

 

 

①>③>②(※)

 

 

の順と考えてください。

(※自前の土地が、後に高く売却できた時を除く)

 

 

つまり、『②土地は借りる、建物は自前で用意する』、が最も実質コストを抑えることができます。

 

 

シミュレーション

 

コスト計算のために、シミュレーションを行います。

 

 

前提として、土地1億円(300坪)、建物6,000万円とします。

 

 

これからの郊外での開業は、広い駐車場が必須なので、250坪以上の広い土地がマストとなります。

 

 

この土地で、30年間クリニックを経営したときのコストを計算します。

 

 

②土地は借りる、建物は自前で用意する

 

まずは、最もコストが安いと思われるの場合です。

 

☆土地のコスト☆

 

土地を借りるための料金(地代)は、当然、大家さんとの交渉次第で変わりますが、おおむね、相場は以下の通りに計算されます。

 

 

年間地代=固定資産税評価額×(固定資産税1.4%+都市計画税0.3%)×3~5倍

 

 

 

つまり、大家さんが毎年払う固定資産税の3~5倍が、地代のひとつの目安となります。

 

 

 

固定資産税評価額は、だいたい土地の実勢価格(売却価格)の70%ですので、実勢価格1億円の土地の場合の地代は

 

 

年間地代=1億円×70%×(1.4%+0.3%)×3~5=357~595万円/年

 

となります。

 

 

30年間借りると、

 

357~595万円/年×30年=10,710~17,850万円

 

かかります。

 

 

ちょうど、土地を購入した場合と同額~1.8倍ほどかかることになります。

 

 

 

とても大切なことは、この地代は、経費として全額がクリニックの売上から控除が可能だということです。

 

 

後に説明しますが、土地を購入すると、その返済額は経費として扱われませんので、全額を、院長の税引き後の手取り収入から返済しなければなりません

 

 

 

☆建物のコスト☆

 

 

6,000万円の建物を自前で建てる時、通常、その費用を銀行などから借りることになります。

 

 

6,000万円を、年利1%、25年返済、元利金等返済した場合のトータル返済額は 6,783.7万円 (うち利息分  783.7万 円)となります。

 

 

土地を 借りた場合と同様に、この返済額もすべてクリニックの経費として売上から控除が可能です。

 

 

 

そうしますと、土地と建物の合計コストは、

 

 

 土地+建物=10,710~17,850万円+6,783.7万円 =17,493.7~24,633.7万円

 

 

かかることになります。

 

(※建物にかかる固定資産税は、今回考慮しません。)

 

 

①土地も建物も自前で用意する

 

次に、①について計算します。

 

建物の建築コストについては②と同額ですので省略し、土地の購入費用について計算します。

 

☆土地のコスト☆

 

まず、土地代10,000万円を、年利1%、25年返済、元利金等返済した場合のトータル返済額は11,306.2万円(うち利息分 1,306.2万円)となります。

 

 

これに、30年間の固定資産税がかかりますので、

 

 

固定資産税30年分=1億円×70%×(1.4%+0.3%)×30年=3,570万円

 

 

合計で、

 

土地代返済分+利息+固定資産税=1億円+1,306.2万円+3,570万円=14,876.2万円

 

 

となります。

 

 

 

(不動産手数料3%や他諸費用は、上記計算で省略します。)

 

不動産取得費用は経費にならない

 

 

土地を購入した場合の25年目までの額面上の年間コストが571.2万円/年(土地代400万円+利息52.2万円+固定資産税119万円)、26~30年目は固定資産税のみで119万円/年のコストが掛かります。

 

 

一方で、土地を借りた②の場合は、25年目まで628.3~866.3万円/年、26~30年目は土地賃料のみで357~595万円/年のコストが掛かります。

 

 

 

この計算だけ見ると、「なーんだ、買ったほうがお得じゃないか」、と思われるかもしれません。

 

 

しかし、残念ながらそう上手くは行きません。

 

 

 

なぜなら、不動産を取得するのにかかる費用(土地代)はクリニックの経費にできず、下図の右側『土地を購入した場合』の通り、全額を院長の手取り収入から支払わなければならいからです。(※固定資産税+利息は費用に参入可能です。)

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 図の通り、土地を購入した場合(右図)、25年目までは毎年571.2万円/年(土地代400万円+(固定資産税+利息)171.2万円)を支払うためには、クリニックの売り上げ971.2万円から、まず、固定資産税+利息分の171.2万円(右図紫)を経費として支払い、さらに、土地代の2倍の800万円を院長の給与として支払い、納税(院長所得税40%+市民税10%)後に、残った院長手取りから400万円を、さらに土地返済費用として全額支払わなければならなくなるのです。

 

 

 

つまり、クリニックの実質負担分は971.2万円/年、25年では24,280万円ものコストが土地代だけでかかってしまうのです!

 

 

 

それに対して、左図の土地を借りた場合(地代357~595万円/年)、同じ971.2万円のクリニック売上から、地代を引いて残った金額が院長所得になりますので、最終的には、188.1~307.1万円/年を、院長手取りとして残すことが可能となるのです。

 

 

これに、26~30年目は、固定資産税のみで119万円/年のコストが掛かりますので、合計で595万円/5年ですので、30年間トータルの土地代コストは計24,875万円となります。

 

 

最終的に、建物+土地を購入した場合の実質コスト(クリニック売上に占めるコスト)は

 

 

実質コスト(土地+建物)=24,875万円+6,783.7万円 =31,658.7万円

 

 

 

となり、なんと、土地を借りた場合(17,493.7~24,633.7万円)よりも、0.7~1.4億円ほど多く、クリニック負担となる実質コストが増えてしまうのです!

 

 

 

 

③土地も建物も借りる(建貸方式)

 

 

③の建貸方式も、多くのコストが掛かります。

 

 

まず、土地を借りる地代は②と同じです。

 

 

そして、③の場合、大家さんが銀行からお金を借りて、建物の建設を行い、開業医はその建物を、土地と一緒に、大家さんから借りる、という方法を取ります。

 

 

この建物のリース代は、クリニック売上から経費とすることが可能です。

 

 

 

しかしこれは、マンション投資などと同じスキームですので、通常、大家さんの年間利回りは7%が目安となります。

 

 

つまり、大家さんとしては、おおよそ15年で建築費の元を取り、15年で建築費分と同額の利益を得る、という方法です。

 

 

従って、自分が建てるのと、全く同じ費用でクリニックが建てられると仮定しても、30年間で約2倍以上のコストが掛かります

 

 

つまり、

 

建物リース代30年=クリニック建築費(利子含む)6,783.7万円×7%×30年=14,245.7万円

 

 

と、多額のコストが掛かってしまうのです、

 

 

土地と建物を借りた場合の実質コスト(クリニック売上に占めるコスト)は

 

 

実質コスト(土地+建物)=10,710~17,850万円+14,245.7万円 =24,955.8~32,095.7万円

 

 

となります。

 

 

②より、建物を購入した場合とリースした場合の差額の7,462万円コストがかさみます。

 

 

③は3者にお金をむしり取られる

 

 

しかも、おそらく③の場合の実際の建築費用は、まず間違いなく、こんなものでは済みません

 

 

つまり、通常、自分で建てるよりも、はるかに高騰します

 

大家さんの視点

 

なぜなら、設計の際にクリニック院長の希望がある程度通るとしても、実際にGoを出すのは大家さんなのです。

 

 

まず、大家さんとしては、少しでも見栄えが良い建物にして、より多く集患したい、なにより、周囲に自慢したい(自分があのクリニックに土地建物を貸しているんだ!)、という気分になります。

 

 

また、建貸方式は、電気会社の総括原価方式と同じですので、大家さんの利回りが同じ7%であれば、高い建築費であればあるほど、クリニックに高い金額で貸すことができ、その分、大家さんに入るリース代金を多く徴収することができる、という強いモチベーションが働きます。

 

 

それに、建物固定資産税分、メンテナンス費用、その他諸経費などもろもろの理由をつけて、リース代は更に高額になります。

 

建築会社の視点

 

また、クリニックの建築会社も、直接、院長がクリニックを自前で用意する場合は、少しでも設計費を削る、余計な意匠は省く、などのコスト削減の要望を聞かなければなりません。

 

 

しかし、クリニックを建てるのが大家であれば、前述の要因もあり、建築会社の思うままに、より建築費を高騰させ、建築会社に、より多くの利益を出すことができます。

 

 

コンサルタントの視点

 

 

3番目にコンサルタントにとっても、この建貸方式はメリットがあります。

 

 

コンサルタントの中には、一定の料金で、開業医が直接雇う形式のコンサルタントもおり、この場合は、業者からのバックマージンなどはないため、開業医にとって、最もコストが掛からない方式を一緒に考えてくれます。

 

 

しかし、通常の医療コンサルタントは、無償で開業の支援をする代わりに、関わった建築会社、大家、医療機器メーカー、製薬卸企業などから、一定のバックマージンをもらうことで、利益を上げるスキームを取ることが多いです。

 

 

つまり、より多くの利益を、建築会社、大家にもたらすことができれば、医療コンサルは、より多くのバックマージンを得ることができるのです。

 

 

 

もちろん、これは違法でもなんでもなく、営利企業としては、より自社に利益をもたらそうと考えるのは、ごくごく当然の業務です。

 

 

また、建貸方式で開業医を集めてくれるコンサルならば、大家にとっては利益が望めるため、よりよい立地の土地が提供されやすい、というメリットもあるでしょう。

 

 

 

よりよい立地の土地情報が集まれば、より多くの開業志望の医師が集まり、多くの開業実績と名声があれば、さらに人が集まってくるという、良い循環が期待できます。

 

 

 

建貸方式を勧めるコンサルは避けたほうが良い

 

 

しかし、開業医にとっては、いくら立地が良い土地で開業できるとしても、大家、建築会社、コンサルにそれぞれの利益が上乗せされる建貸方式は、メリットよりも金銭的なデメリットの方がはるかに大きいと考えられます。

 

 

 

開業医が、人口増加の恩恵を最大限に受けられたバブル時代とは異なり、開業時の1~2億円のコスト上乗せは、決して看過することはできません

 

 

 

開業相談の時点で、建貸方式を勧めてくるコンサルは、まず間違いなく、開業を後悔する結果になりますので、その時点で、そのコンサルは避けたほうが良いでしょう。

 

 

①が許容されるケース

 

 

シミュレーションでは、①は、②よりも多くの実質コストがかかります。

 

 

しかし、①が許容できるケースもあります。

 

 

 A.相続などで良い立地の土地を元から持っている

 B.30年後も確実に買値以上で売却可能な土地

 C.継承者が確実に期待できる

 

 

 A.相続などで良い立地の土地を元から持っている

 

 

 相続などで、良い立地の土地を元から持っているのならば、地代が完全にかからないので、より開業リスクを抑えることが可能でしょう。

 

 

しかし注意点として、『集患が期待できないやや狭く駐車可能台数が少ない30年後の人口減少の可能性が高い』、など、なまじ土地を持っているだけに、立地としては微妙な土地に執着してしまい、肝心の集患が難しい土地で開業してしまうことは、開業リスクが増えるだけです。

 

 

そのような場所を所有していても、執着せず、むしろその土地は売却して、開業資金としたほうが、結果的には良い場合もありますので、立地の選定には、十分な検討が必要です。

 

B.30年後も確実に買値以上で売却可能な土地

 

また、クリニック経営時には、土地の取得費用は、院長の手取りから出さなければなりません。

 

 

キャッシュフローの点から、かなり負担が大きいですが、もし、30年後(閉院時)に、確実に買値以上で売却可能な土地であるならば、トータルコストは、3つの中で最も抑えることが可能な可能性もあります。

 

 

しかし、人口減少社会で、30年後に土地の価格上昇が期待できる場所は少ないですし、確実に売却できる保証もまずありません

 

 

そもそも、そんなに条件が良い立地の土地を売却する地主はそうそういないと思われます。

 

 

相続などの関係で、土地の経営に興味がなく、すぐ現金化したいという地主も稀にはいるかもしれません。

 

 

しかし、現実的には、このような条件の良い土地の売却案件はそうそうありませんし、そのような土地を探しているだけで、時間が無駄に過ぎてしまい、競合クリニックに先に出店されるリスクもあります。

 

 

万一、開業のタイミングで、そのような土地を見つけられたら超ラッキーですが、あまり期待しないほうが良いでしょう。

 

 

C.継承者が確実に期待できる土地

 

30年後(閉院時)に、継承者が確実に期待できるのであれば、購入という方法も悪くはありません。

 

 

持分なし医療法人であれば、継承時に、相続税などもかからないからです。

 

 

ただし、これもBと同じで、30年後に継承しても確実に大丈夫と言えるような条件の良い土地を、売却してくれる地主はそもそもいないことを考えると、やはり購入は難しいと思われます。

 

 

また、開業時で、30年後の確実な後継者(子供)がいるというというのも、ほぼありえないでしょうから、やはり期待しないほうが良いでしょう。

 

 

 

むすびに

 

長くなりましたが、クリニック開業を考えるのであれば、必ず『②土地は借りる、建物は自前で用意する』を第一に考えてください。

 

 

逆に、『③土地も建物も借りる(建貸方式)』は、開業のしやすさだけで言えば、一番簡単でしょう。

 

 

大家にとっては、最も金銭的メリットがある方法ですので、鴨がネギを背負って来てくれれば、喜んで土地を貸してくれると思います。

 

 

しかし、良心的なコンサルであればよいのですが、開業させることを最優先し、ランニングコストを度外視するような開業をすれば、勤務医時代よりもむしろ所得が下がる、下手をすると、数年で経営破綻ということも、現実的に十分起こりうることを、重々念頭においたほうが良いでしょう。

 

 

 

基本的に、性善説を信じがちであり、経営学を学ぶ機会もなかった我々医師は、一般社会においては、完全に格好のカモであることを忘れてはいけません!!

 

 

 

それでは皆さま、良い開業を!