こんにちは、shiro-mameshibaです。
株価不安定期を迎える今日、キャピタルゲイン(売買差益)狙いのいわゆるグロース株投資ではなく、長期のインカムゲイン(配当金利益)を目標とした高配当株投資が注目されています。
しかし、日本においては、今後、こうした高配当株投資(ETFや個別株)はやや不利になるかもしれません。
(投資初心者の方向けの内容になります。)
※この記事を作成終了後、同じような記事を書いている方がいないか探してみたら、著名なつみたて次郎氏の2018/1/5の記事に、ほぼ同じようなシミュ―レーションが既に行われておりました。
こちらの方がはるかに分かりやすい内容ですので、下記の記事を読むより、つみたて次郎さんの記事を読まれた方がよろしいかもしれません。
なお、つみたて次郎氏には、事前に今回の記事を御校閲頂き、掲載許可を頂いております。
氏の寛大なご配慮に、心より御礼申し上げます。
金融所得課税強化は、高配当株投資にとって不利
まず断っておきますが、この記事は、高配当株投資の有用性を否定するものではありません。
ここは大切なので、強調しておきます。
インカムゲインを目的としたよりディフェンシブな優良高配当株への長期投資は、株価下落傾向にある現状において、有効な投資方法であるという戦略は正しいと思います。
しかし、財務省が検討している金融所得課税強化が実現すれば、優良高配当株や高配当ETFへの投資戦略は、今後、今よりも不利になるかもしれません、ということです。
財務省による金融所得課税強化
2018年11月7日ロイターの報道で、「麻生太郎財務相は7日午前の参院予算委員会で、金融所得課税の強化について「財務省で検討していたのは事実」と述べた。」という記事が流れました。
ごくごく簡単に言うと、投資で得た利益に対しての税金を増税する検討をしていた、ということです。
配当が出るたびに税金がかかる
高配当株投資戦略の大前提として、年数回配当される配当金を、再び再投資に回すことによって、長期的に高い利益を狙うということがあります。
しかし、ここで配当が出るたびに、税金がとられてしまっています。
2018年現在、日本においての金融所得課税は、インカムゲイン、キャピタルゲインに関わらず、分離課税では所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%で。合計20.315%となっています。
さらに、(米国株投資では)ここにさらに10%の米国源泉徴収税率がかかってきます。
つまり、20.315%(国内源泉税)×10%(米国源泉徴収税率)で、合計28.2835%が配当金の度に課税されてしまっています。
現状ではまだ、高配当投資戦略は有効な投資方法だとは思いますが、この国内源泉税が、今後、25%、30%、40%と増税されていったとしても、はたしてその有効性を超長期的に保っていられるのでしょうか?
(詳しく言うと、外国株や海外ETFからの配当金にかかる海外源泉徴収税は、所得がある方ならば、確定申告の外国税額還付により還付することができます。ただし、所得がない方については還付を受けることは出来ません。つまり、定年退職後の所得がない状態での配当金生活を考えてらっしゃる方では、外国税額還付による還付を受けることは出来ません。詳しくは、国税庁のHPをご覧ください。)
高配当ETFと投資信託
多くの方が、定年退職後のインカムゲインを期待して、高配当優良株や高配当ETF(VYMやBND等)に投資する高配当投資戦略を行っているかと思います。
しかし、金融課税強化を考えると、これは少し考え直した方が良いかもしれません。
なぜなら、高配当株の投資信託(楽天VYM等)を選択しておけば、将来的に金融所得課税が増税されたとしても、課税の先送りができるからです。
例えば、VYM(ETF)に投資して、金融所得課税が20→30%に増税された時のことを考えてみましょう。
金融所得課税 20%の場合(2018年現在)
VYM(ETF)では、年間配当金が3.0%(税引き前)程度です。
試しに、投資額100万米ドル、年間配当金が30,000米ドルだったとしましょう。
現在の金融所得課税率20%(復興増税含めて20.315%)では、前述の通り、ここから、合計28.2835%が配当金の度に課税されるため、
30,000米ドル×28.2835%=8485.05米ドル
が税金として引かれてしまい、差し引き
30,000米ドル-8485.05米ドル=21,514.95米ドル
が手元に残ります。
VYM(ETF)の配当リターンとしては、約2.15%/年です。
これに対して、楽天VYMでは、国内課税が先送りになるため、再投資に回る分は
30,000米ドル-10%(米国源泉徴収税率)=27,000米ドル
となり、楽天VYMの実質配当リターンは約2.7%/年です。
(投資信託の信託報酬、隠れコスト等は、上記計算では一旦無視しています。)
金融所得課税 30%の場合
同じく、投資額100万米ドル、年間配当金が30,000米ドルとした時、金融所得課税率30%(復興増税含めて30.315%)に増税された場合を想定します。
ここから、国内外で合計37.2835%が配当金の度に課税されるため、
30,000米ドル×37.2835%=11185.05米ドル
が税金として引かれてしまい、差し引き
30,000米ドル-11185.05米ドル=18814.95米ドル
が手元に残ります。
VYM(ETF)の配当リターンとしては、約1.88%/年です。
これに対して、楽天VYMでは、国内課税が増税されても、課税は先送りになるため、再投資に回る分は
30,000米ドル-10%(米国源泉徴収税率)=27,000米ドル
と課税額20%の時と変わらず、楽天VYMの実質配当リターンは約2.7%/年のままです(課税先送り)。
課税率ごとの長期リターンの推移
ここで、金融課税率ごとの長期リターンの変化を見てみたいと思います。
前提条件を下記の通りにします
・最初の年に100万米ドルをVYM(ETF)と楽天VYMに投資する
・配当金をそのまま再投資する(楽天VYMでは、国内課税は先送りとする)
・配当金以外は追加投資しない
・再投資時の購入手数料や為替手数料は考慮しない
・外国税額還付は行わない
・トラッキングエラーは考えない
以上の前提で計算を行います。
金融課税率 20%の場合(復興増税含めて20.315%)
前提条件の計算では、VYM(ETF)の年間リターンが6.071495%、楽天VYMの年間リターンが6.5%となります。
30年経過の時点で、VYM(ETF)が552.5万米ドル、楽天VYMが621.0万米ドルとなりました。
差額は、68.5万米ドルです。
信託報酬の差以上に、課税の先送りが、トータルリターンに影響することがわかります。
金融課税率 30%の場合
前提条件の計算では、VYM(ETF)の年間リターンが5.801495%、楽天VYMの年間リターンは6.5%のままです。
30年経過の時点で、VYM(ETF)が513.2万米ドル、楽天VYMが621.0万米ドルとなりました。
差額はなんと107.8万米ドルと、+100%リターン(税引き前)を超えています。
金融課税額強化が、いかに高配当株投資戦略に悪影響を及ぼすかがお分かりになるかと思います。
今回除外した手数料や還付について
上記シミュレーションは、外国税額還付(年間リターンとして最大約0.3%分)を考慮しておりませんので、実際にはもう少し差は縮まるもしれません。
ただし、所得が少なく、投資金額が多くなるほど、還付額は減少するため、リタイア後に外国税額還付をすることは現実的ではないことを考え、今回はあえて、外国税額還付は除外して計算しました。
その他、買い付け手数料、為替交換手数料等(年間リターンとして往復で約0.1%程度か)も今回計算から除外しております(各証券会社ごとに条件が異なるため)が、これらは逆にVYM(ETF)が不利となります。
楽天VYMの隠れコスト(0.15%ほど?)も、今回は除外してあります。
(計算間違い等ありましたら、ご指摘いただけましたら幸いです。)
外国の金融所得課税
今後、最大で金融課税所得はどこまで上がるのか?と考える参考として、諸外国の2018年現在の配当課税について調べてみました。
(国税庁HP 主要国の配当課税の概要(2018年1月現在)より)
上記の通り、日本とほぼ同様の分離課税制度なのがドイツ、フランス(選択式)であり、その税率はそれぞれドイツ 26.375%、フランス 30%となっています(外国源泉税との兼ね合いは分かりません)。
少なくても、将来的にはこの程度まで増税される可能性は高いでしょう。
つまり、配当に対して25~30%程度の金融所得課税強化が今後実現されると思われます。
なお、イギリスも分離課税ですが、日本の所得税でいう累進課税のような制度をとっており、全ての所得(給与や利子所得と合算して)の総額が150,000 ポンド(約2,235万円)超のブラケットに対応する部分には38.1%の税率が適用されます。
ノブレス・オブリージュの国とはいえ、富裕層には大変厳しい制度ですね。
むすびに
今回は、この課税強化案は流れましたが、軽減税率の穴埋めなどの理由をこじつけて、この税率を上げようとする流れが事実である以上、近い将来、金融所得課税が強化されるのは確実でしょう。
高配当株投資戦略を取っている方で、VYM(ETF)を購入されている方も多いかと思いますが、今後、長期的な課税強化の可能性を考慮するならば、少々の信託報酬の差や外国税額還付ができないことに目をつぶっても、課税が先送りにできる投資信託の楽天VYMに投資しておいた方が、長期リターンの視点からすると、安心できるかもしれません。
また、今回のシミュレーションは高配当個別株については考慮しておりませんが、こちらもやはり、金融課税額強化の影響を当然強く受けますので、今後の税制改革も念頭にした上で、投資戦略を練り直しておいた方が良いかもしれませんね。
ただし、シミュレーションの通り、楽天VYMのように、配当を課税先送りして再投資してくれる無分配型の投資信託は、ETFに対して優位性が高すぎるため、今後、配当を強制化して一旦課税する(配当型への義務化)などの対策が取られる可能性もあるかもしれません。
投資は自己責任でお願いします。