【開業医のためのお金の教室②】iDeCoについて
こんにちは、shiro-mameshibaです。
前回の続きで、今回は、開業医の社会保障制度であるiDeCoについてです。
- 開業医のための3つの社会保障制度
- シミュレーション
- ②第1号被保険者としてのiDeCoについて
- 年6%で運用した場合
- iDeCoの受け取り方
- 小規模企業共済とiDeCoを一括受給する方法
- 先にiDeCoを一括受給し、後に、小規模企業共済を一括受給がベスト
- 分割受給(年金扱い)の場合
- 開業医の早期リタイアは現実的ではない
- 官僚の天下りが最適
- 資産家も国民健康保険負担から逃れられる
- 閉院時に56歳以上60歳未満の配偶者とiDeCo
- 国民年金の付加保険料と併用
- むすびに
開業医のための3つの社会保障制度
前回の復習ですが、
勤務医をやめて開業医になると、厚生年金から外れ、国民年金の第1号被保険者となるため、その分の年金の差額を埋める必要が出てきます。
また、退職金の積立も新たに必要となります。
その代替として用意されている社会保障制度が、①小規模企業共済と②iDeCo(第1号被保険者として)、または③国民年金基金です。
(※従業員向けには、中小企業退職金共済:中退共という制度もあります。)
拠出可能額
①小規模企業共済は1,000~70,000円/月まで拠出が可能です。
②第1号被保険者としてのiDeCo、または③国民年金基金(及び付加保険料)は、いずれか、もしくは両者の併用で合計68,000円/月までの利用が可能です。
つまり、①~③の併用で、最大138,000円/月(年間1,656,000円)まで、所得から全額控除が可能となります。
今回は、この②第1号被保険者としてのiDeCoについて説明します。
シミュレーション
まず前提として、35歳で開業、65歳でクリニック閉院した場合のシミュレーションを行います。
結論
長くなりますので、結論を先にまとめると
となります。
②第1号被保険者としてのiDeCoについて
まず、サラリーマン(第2号被保険者)である勤務医は、民間病院か公立病院かによってiDeCoの掛け金が異なり、12,000~23,000円/月が上限となります。
(りそな銀行HPより)
これに対し、開業すると、第1号被保険者である個人開業医の掛金上限は月額68,000円(年間816,000円)まで増額されます。
iDeCoの加入可能期間は60歳までです(※延長予定あり)。
そのため、開業して60歳まで25年間勤務した場合、816,000円×25年=2,040万円もの所得控除が可能となります。
課税所得が1,800~4,000万円だったときの所得税率は40%、市民税は10%のため、2,040万円×(40% +10%)=1,020万円もの節税がまず可能となります。
(なお、個人開業医が医療法人化した場合には第2号被保険者となるため、掛金上限は月額23,000円(年間276,000円)となります。)
配偶者のiDeCoについて
配偶者が、看護師や事務として働いてくれる青色事業専従者であるならば、同じく第1号被保険者となりますので、iDeCoで毎月68,000円(年間816,000円)まで拠出が可能です。
配偶者がiDeCoに加入した場合、その拠出金は配偶者自身の所得からは控除可能ですが、開業した医師の所得から控除することは出来ません。
そのため、配偶者が専業主婦だった場合などには、iDeCo加入のメリットは薄いと言えます。
これに対し、次回説明する国民年金基金では、配偶者分の拠出額も、医師の所得から控除できます。
ここは非常に重要ですので、次回にまた改めて説明します。
年6%で運用した場合
iDeCoでは、自分で拠出する商品を選ぶ必要があります。
商品選択については以前記事にしているのでそちらを参考にしてください。
shiro-mameshiba.hatenablog.com
当ブログは米国株押しですので、S&P500かVTIに連動する商品をお勧めしていますが、基本的には、全世界株(VT)や先進国株に連動するものが推奨されると思われます。
インデックス投資の期待リターンは6%/年とされていますので、このリターンで25年間、月額68,000円を運用した場合のシミュレーションは以下の通りになります。
(楽天証券HPより)
つまり、2,040万円の拠出金が、25年で4,713万円(+131%リターン)まで上昇することが期待できます。
我々高額納税者にとって、払った額が戻ってくるかも定かではない厚生年金よりも、遥かに高いリターンが期待できることがお分かりになるかと思われます。
iDeCoの受け取り方
iDeCoの年金資産は、老齢給付金として原則、60歳から(~70歳まで)受け取ることができます。
iDeCoの払い戻しは、一括、分割(5~20年)、またはその組み合わせを選ぶことが出来ます。
小規模企業共済同様に、一括受取りの場合は退職所得扱いに、分割受取りの場合は、公的年金等の雑所得扱いとなり、税制メリットもあります。
ただし、結論から言うと、一括受け取りの退職金扱いの方が、税制上、遥かに優れています。
退職金扱い(一括受け取り)の場合
一括受取りの退職金扱いでは、退職所得(額面の退職金から、各種控除した、実際に課税される額)に対して、所得税と市民税が課税されます。
まずは、以下の計算式で退職所得の金額を求めます。
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額
※上記式の退職所得控除額は、勤続20年以下は40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)、20年超では、800万円 + 70万円 × (勤続年数- 20年)となります。
つまり、上記シミュレーション(25年積立)の場合は、
(4,713万円ー(800万円+70万円×(25-20)))×1/2=(4,713万円ー1,150万円)×1/2=1781.5万円(退職所得の金額)
となります。
退職所得は申告分離課税ですので、他の所得との合算はなく独立して所得税(下表)が課税されます。
上記に当てはめると
(所得税)1781.5万円×33%ー153.6万円=434万円
となります。
また、退職金には退職所得の金額に対して、市民税も一律10%かかるため、
(市民税)1781.5万円×10%=178.1万円
となり、434万円+178.1万円=612.1万円(4,713万円の約13.0%)が最後に収める税額となります。
(現在は、復興増税として、上記に2.1%が増額されています。)
また、上記は加入期間を25年としていますが、勤務医時代から拠出を続けていた場合には、その期間も合計されますので、退職所得控除額はもっと長くなりますし、現在はiDeCoの加入は60歳までですが、今後はもっと延長されることが予想されます。
小規模企業共済とiDeCoを一括受給する方法
ただし、上記一括受け取りの場合は、前回お話した小規模企業共済の受け取り時期との重複について注意が必要です!
小規模企業共済とiDeCoの一括での受給方法の非常に大切な注意点は、以下の2つです。
つまり、小規模企業共済とiDeCoは、同年~4年以内に受給してしまうと、同じ退職金控除の枠を使用することになるため、メリットが相殺(後にもらう退職金には、上記計算式の退職所得控除がなくなってしまう!)されてしまい、不必要に、莫大な税金を払わなくてはならなくなってしまうのです。
(この不平等の解消のため、iDeCoにおいても、退職金控除の重複期間を過去4年以内に改正することが望まれます。)
先にiDeCoを一括受給し、後に、小規模企業共済を一括受給がベスト
これを避ける方法は、先にiDeCoを一括で受給し、その5年後以降に、退職金控除の復活を待ってから、小規模企業共済を一括で受給する必要があります。
(※その逆だと、小規模企業共済受給(クリニック閉院)後、15年してからiDeCo受取となるため、現実的ではありません。)
具体的には、iDeCoの受給開始可能年齢は60歳(R2現在)からですので、60歳でiDeCo一括受給、65歳以降でクリニック廃業とともに小規模企業共済を一括で受給する、というのが、税制メリットを最大限に利用する方法となります。
つまり、iDeCoは原則として60歳以降70歳までの好きなときに、分割あるいは一括で受け取ることができるという点にメリットがありますが、遅くても、クリニックを閉院する5年前までには、iDeCoを受給する必要があることを忘れないようにしてください。
早期リタイヤを希望する場合
また、どうしても早期リタイヤ(60歳以前にクリニック閉院)したい場合には、先に小規模企業共済を一括で受給し、翌年以降に、iDeCoを受給するようにしましょう。
受給が同年でなければ、退職所得控除自体は復活しませんが、それぞれ別に退職金扱いとなるため
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額
という、退職所得の特例が、あとにもらうiDeCoにも適用されます。
退職所得控除はありませんが、それぞれ別の年に、退職所得を1/2にすることが出来ますので、少しでも所得税率をあげないようにすることが可能となります。
A. もし、同じ年に一括受給した場合
たとえばですが、最悪のケースで、上記の通り、払戻金がiDeCo 4,713万円と、小規模企業共済 3,043万円(84万円×30年拠出した場合の共済金A払戻金)。合計退職金7,756万円であった場合、同じ年(65歳)に一括払い戻しされてしまうと
退職所得の金額=(4,713万円+3,043万円ー1,150万円)×1/2=3,303万円
となり、
1,800万円を超える所得税の税率はなんと40%となるため、税負担は
(所得税)3,303万円×40%ー279.6万円=1041.6万円
(市民税)3,303万円×10%=330.3万円
で、1041.6万円+330.3万円=1,371.9万円(計7,756万円の17.7%)が最終的な税額になります。
B. 1年ずらして一括受給した場合
一方、1年ずらして一括受給した場合、退職所得はそれぞれ
小規模企業共済 (3,043万円ー1,150万円)×1/2=946.5万円
iDeCo (4,713万円ー退職所得控除)×1/2=2,356.5万円
と計算されるため、下表の通り、
小規模企業共済の課税所得946.5万円について、課税額は、
(所得税)946.5万円×33%ー153.6万円+(市民税)946.5万円×10%=158.7万円+94.7万円=253.4万円
となり、iDeCoの課税所得2,356.5万円について課税額は、
(所得税)2,356.5万円×40%ー279.6万円+(市民税)2,356.5万円×10%=663万円+235.6万円=898.6万円
合計課税額は
253.4万円+898.6万円=1,152万円
となり、退職所得全体(7,756万円)の14.9%となります。
最終的に、「A. 同じ年に一括受給した場合」と比較して
1,371.9万円ー1,152万円=219.9万円
もの手取りの違いが生じてしまいます。
たった一年、受給する年度を変えただけで、約200万円もの税負担の軽減を図ることが可能となるのです。
C. 5年以上空けて受給した場合
なお、先にiDeCoを一括受給(加入期間25年)、5年後に小規模企業共済を一括受給(加入期間30年)し、退職所得控除のメリットを最大限に受けられた場合、退職所得はそれぞれ
iDeCo(60歳受取) (4,713万円ー1,150万円)×1/2=1,781.5万円
小規模企業共済 (65歳受取)(3,043万円ー1,500万円)×1/2=771.5万円
となりますので、
iDeCoの課税所得1,781.5万円について課税額は、同じく上表から
(所得税)1,781.5万円×33%ー153.6万円+(市民税)1,781.5万円×10%=434.3万円+178.1万円=612.4万円
小規模企業共済の課税所得771.5万円について課税額は、
(所得税)771.5万円×23%ー63.6万円+(市民税)771.5万円×10%=113.8万円+77.2万円=191.0万円
となり、合計課税額は
612.4万円+191万円=803.4万円
と、退職所得全体(7,756万円)の10.4%と、納税額を大幅に抑制することが可能となります。
最終的に、A. 「同じ年に一括受給した場合」と比較して
1,371.9万円ー803.4万円=568.5万円
となり、たった5年で、約500万円以上もの手取りの違いが生じてしまいます。
分割受給(年金扱い)の場合
D. iDeCoを分割受け取り(公的年金等の雑所得扱い)する場合
また、分割受取りの場合も、一応解説しておきますが、開業医にとっては、分割受け取りは、雑所得扱いとなり、他の収入と合算して総合課税されるため、税法上、著しく不利になってしまいますので、全くお勧めできません。
分割受取りの公的年金等の雑所得扱いでは、以下の計算式の課税がされます。
公的年金等の控除額
(※)公的年金等の控除額の計算が、少しややこしいのですが、他の所得(事業所得等)と合算した合計所得によって、合計課税額1,000万円以下、1,000~2,000万円、2,000万円以上にまず分類され、それぞれ下表の分類の中で、公的年金収入(今回の場合はiDeCo分割金)によって、控除額が決定されます。
合計課税額1,000万円以下
合計課税額1,000万円以下の場合、公的年金等の控除額計算は下表のとおりです。
(国税庁HPより)
65歳以上、年金収入330万円以下の場合は、控除額が大きくなります。
ただし、この分割受け取り(合計所得1,000万以下)は、開業医にはあまり現実的ではありません。
なぜなら、前述の小規模企業共済との兼ね合いがあるため、iDeCoを先に分割で受給しながら、60歳以降、クリニック廃業するまで(小規模企業共済を一括受給するまで)働き続けた場合、通常の開業医であれば、開業医としての事業所得とiDeCo分割金を合算した所得金額は、1,000万円を優に超えてしまうはずだからです。
合計課税額1,000~2,000万円、2,000万円以上
合算した所得金額が1,000万円を超えた場合は、上記表(所得金額1,000万円以下)は適用されず、下表(1,000~2,000万円の場合、また、2,000万円を超える場合の公的年金にかかる控除計算)が適用されます。
このように、合算した所得金額が1,000万円を超えた場合は、 公的年金等の控除額がかなり下がってしまいます。
つまり、控除額の減額分、公的年金等の雑所得(課税される年金額)が、計算上、より高くなってしまいます。
また、分割した払戻金は雑所得となるため、最終的に給与所得と合算され総合課税されてしまうため、最終的な課税額は、かなり高額となってしまいます。
分割受給額
そのため、例えば、厚生年金と国民年金の受給を70歳に繰り下げ受給することとして、60歳からiDeCo 4,713万円を10年分割で受給した場合、1年の受給額は
4,713万円÷10年=471.3万円/年
となります。
所得金額が2,000万円を超えていた場合
所得金額が2,000万円を超えていた場合、公的年金等に係る雑所得(課税される年金額)は、上表より、年齢によらず
471.3万円/年×85%ー48.5万円=352.1万円(公的年金等に係る雑所得の金額)
と計算されます。
この352.1万円が、雑所得として、最終的に、給与所得と合算されて総合課税されてしまうため(下表)、
所得金額が1,800万円を超えていた場合、所得税額は40%、市民税は10%となりますので、
(所得税)352.1万円×40%+(市民税)352.1万円×10%=176.1万円
と、年金収入471.3万円/年に対して、176.1万円もの税金を、毎年収めなければなりません。
(所得控除279.6万円、基礎控除48万円は、本業の所得から既に引かれているため、年金額の加算には考慮しない)。
これが10年間続くため、10年間にかかる所得税と市民税の総額は
176.1万円×10年=1,761万円
となり、 iDeCo受給総額4,713万円に対して、なんと、37.4%もの課税額です!
これに、小規模企業共済 3,043万円(84万円×30年(いつリタイヤするか不明のため、仮に、30年として計算します)拠出した場合の共済金A払戻金)の退職金課税額191.0万円を合計すると、1,761万円+191.0万円=1,952万円となり、退職所得全体(7,756万円)の25.2%もの税負担となります。
つまり、一括で受け取る場合(A~C)の合計納税額(804.6~1,373.9万円)に比べて、税金が極めて高額となってしまい、分割で受け取るメリットは何もありません。
以上のことから、開業した場合、廃業前にiDeCoを分割して先に受け取ることは、税法上著しく不利であり、一括で受け取るほか選択肢はありません。
(なお、こんな不利な受取方法でも、iDeCoとして拠出せず、給与としてそのまま累進課税された場合の所得税+市民税よりは、はるかに課税率が安いのが、とても物悲しいです・・・・(._.))
E. 早期リタイヤ後(小規模企業共済受取後)、iDeCoを分割して受給した場合
D.の逆で、60歳までに早期廃業(小規模企業共済を一括受給)し、その後に分割してiDeCoを受給した場合についても、一応検討します。
国民年金、勤務医時代に収めていた厚生年金は、70歳以降に受給繰り上げとします。
この場合、小規模企業共済は60歳(加入期間25年、拠出額2,100万円、給付額2,534.1万円)一括で受け取りとなり、
小規模企業共済の退職所得 (2,534.1万円ー1,150万円)×1/2=692.05万円
となり、課税額は、
(所得税)692.05万円×20%ー42.75万円+(市民税)692.05万円×10%=95.66万円+69.2 万円=164.86万円
となります。
一方、60歳からiDeCoを10年分割(471.3万円/年)で受給した場合、既に廃業後ですので、他に所得がなければ、公的年金等に係る雑所得以外の所得は1,000万円以下に当てはまりますので、
公的年金等に係る雑所得は
471.3万円/年×85%ー68.5万円=332.1万円
と計算されます。
ここから基礎控除48万円が引かれますので、
332.1万円ー48万円=284.1万円(課税所得)
となります。
その他の所得はないため、所得税の税率10%が適応されますので、1年で納める税額は
(所得税)284.1万円×10%ー9.75万円+(市民税)284.1万円×10%=18.66万円+28.41万円=47.07万円
10年間で
47.07万円×10年=470.7万円
がiDeCo分割で収める納税額になります。
最終的な課税額合計は、
小規模企業共済(一括)課税額+iDeCo(分割)課税額=164.86万円+470.7万円=635.56万円
となり、退職金全体 7,247.1万円(小規模企業共済 2,534.1万円+iDeCo分割 4,713万円)からみて、最終的な課税率は8.76%となります。
注意点として、小規模企業共済の加入期間が、CとEでは、そもそも異なる(30年 vs 25年)ため、一概には最終的な課税額の比較はできません。
しかし、C. 「5年以上空けて受給した場合」でも、退職金全体に占める最終的な課税額は10.4%ですので、一見、このEが、最終的な課税率が、最も安くなる方法に思われるかもしれません。
しかし、この受給方法も、実は最善ではありません。
年金収入と国民健康保険料の兼ね合い
一見、このEの受給方法が、最も税率が下がる最良の方法に思えるかもしれません。
しかし、年金収入が増えるということは、国民健康保険料が増えてしまうジレンマがありますので、これまた負担が大きくなります。
国民保険増額分は391万円以上!
60歳でクリニック閉院後、横浜市に在住し、夫婦二人(ともに60歳)で国民保険に加入したケースを考えてみましょう。
閉院後にiDeCo分割受給した場合
上記の通り、iDeCoの分割で471.3万円/年の収入が10年間続き、毎年47.07万円が課税されるとします。
(横浜市HPより)
細かい計算は置いておいて、試算では、60~64歳まで、(公的年金収入450万円時の国民保険負担額を参考に)年間国民保険料が439,300円以上、65~70歳までは343,740円以上の負担が発生します。
この10年間の国民健康保険料合計は、439,300円✕5+343,740円×5=2,196,500円+1,718,700円=391.52万円以上
となります。
年金所得がない場合
それに対し、年金所得がない場合(退職金を申告分離課税の一括受け取りとした場合)、退職金は国民保険額に影響しないため、所得はなしと判断されるため、同様に
(横浜市HPより)
上記の通り、試算では、60~64歳まで、(公的年金収入103万円時の国民保険負担額を参考に)年間国民保険料が26,780円+8,670円=35,450円、65~70歳までは、介護分がなくなるので、年間26,780円の負担が発生します。
この10年間の国民健康保険料合計は、35,450円✕5+26,780円×5=177,250円+133,9000円=31.115万円
となります。
つまり、iDeCoを分割した場合と一括受給した場合で、国民健康保険料負担の差額は391.52万円ー31.15万円=360.37万円
と、なんと350万円オーバーの新たな負担がかかってしまいます。
したがって、やはり、どんな方法でもiDeCoを分割で受け取るのは、税法上、また国民健康保険料の負担増となることから、全くお勧めできません。
開業医の早期リタイアは現実的ではない
そもそもですが、現実的に、多くの勤務医が開業するのは30代後半以降であること、(親からの医療法人の継承でもなければ)開業費用を返済するのに20年程度はかかることを考えると、60歳以前に早期リタイアというのはまず現実的ではありません。
また、1年以上リタイアを先延ばしにするだけで、通常は、1,000万円以上の手取り収益が毎年得られることを考えると、無理に早期リタイアするよりも、素直にC. 「5年以上空けて受給した場合」で、先にiDeCoを60歳以降に一括受給、5年以降後に小規模企業共済を一括受給するのが、資産を最大化する、最善の方法だと思われます。
官僚の天下りが最適
これも余談ですが、現役時代、ある程度給与を抑えて、退職後、国民年金、厚生年金の受給額をあまり多くはせずに、国民保険料の対象となる基準総所得金額を少なくして国民健康保険負担額を少なくし、その基準総所得金額には含まれない退職金を何度も受給する、というのが、もっとも賢い(悪どい)節税の仕方です。
天下りの官僚さんたちは、本当に頭が良くていらっしゃいますね。
医師はこの逆で、現役時代の厚生年金拠出額が多いため、リタイア後の厚生年金支給額が多い分、国民保険料の負担が、非常に多くなるわけです(笑)
これを逃れられるのは、役員、理事、取締役、相談役などの名目で、退職金を何度ももらえる、元官僚、元政治家、上場企業元役員、地元の名士の方々だけです。
お友達同士、各社、または財団法人などを利用し、定期的に要職を譲り合いながら、退職金をもらい、お互いに、老後を明るく、そして、楽しく暮らしてらっしゃるのでしょうね。
国民健康保険の負担など、一般国民に負担してもらって(白眼)。
資産家も国民健康保険負担から逃れられる
ちなみに、この基準総所得金額には、利子所得、不動産所得、配当所得、株式譲渡所得も含まれていますが、特定口座の源泉徴収あり(申告不要)を選択しているならば、基準総所得金額にカウントされないため、国民健康保険の負担増から逃れることができます。
つまり、資産家も、この国民健康保険の負担からは逃れることができるわけです。
うーん、資産家、権力者にとって、とっても都合がよい仕組みですね・・・。
閉院時に56歳以上60歳未満の配偶者とiDeCo
なお、これも余談ではありますが、青色事業専従者である配偶者がiDeCoに加入していた場合は、かなり話がややこしくなります。
院長である医師と、配偶者が同い年くらい、もしくは配偶者が年上であれば、何も難しいことは考えずに、Cと同じ解約方法を、院長と同じタイミングで行えば問題ありません。
ただし、もし仮に、閉院時に、配偶者が56歳以上60歳未満(つまり10歳程度年下)だった場合、話が難しくなります。
現在、iDeCoの受け取りは60~70歳まで可能です。
つまり、院長が65歳で閉院しようとした場合、配偶者はまだ60歳未満だった場合、iDeCoの受給資格(60歳~)がありません。
そのため、閉院とともに、iDeCoより先に、強制的に、小規模企業共済が退職金として先に支給されてしまします。
その場合、上述の通り、iDeCoは「過去14年以内に受給した退職金と合算して退職金控除される」という制約があるため、閉院時に、配偶者が56歳以上60歳未満であり、閉院後、14年以内(70歳以下)にiDeCoを受け取ると、退職金控除が適用されませんので、税制面で大きな損をしてしまうのです!
つまり、閉院時に配偶者が55歳以下で、閉院に伴い配偶者が退職、先に小規模企業共済を受け取り、その後、70歳でiDeCoを受け取れば、ぎりぎり15年以上経過するため、退職金控除が復活します。
しかし、院長と配偶者の年齢差があったり、院長が張り切りすぎて、廃業するのが遅れてしまい、閉院時に、配偶者が56歳以上60歳未満である場合には、必然的に、iDeCo受給時に退職金控除のメリットは消失してしまうのです!
閉院前の解約もおすすめできない
また、それを避けるようとして、閉院前の、配偶者が55歳未満の時点で、小規模企業共済を先に任意解約してしまうと、こんどは、小規模企業共済が、退職金扱いされずに、一時所得扱いとなってしまうため、税制的にかなり不利になってしまいます(他の所得と合算されて課税されてしまう)ので、これまた上手く行きません。
非常に残念ですが、2021年現時点では、閉院時に、配偶者が56歳以上60歳未満だった場合に、iDeCoのメリットを最大限活用することができないのです。
愛に年の差は関係ありませんが、税制は愛を考慮してくれません(無情)。
ただし、上記は2021年現在での試算です。
今後、iDeCoの拠出期間が65歳までに延長されることは確実ですので、そうなれば、iDeCoの受給期間も75歳までに延長されることでしょう。
そうなれば、たとえ閉院時に配偶者が56歳以上60歳未満であったとしても、15年経過してから、iDeCoを受給すれば良いことになると思われます。
また、今後、iDeCoの退職金控除の条件が改善され、重複期間が過去14年以内ではなく、他の退職金同様に過去5年と改正されれば、閉院後、5年経過した時点で、iDeCoを問題なく受給できるようになるでしょう。
配偶者の老後の安心のためにも、そしてなにより夫婦仲のためにも(笑)、いち早く、法改正が望まれます。
閉院時に60歳以上65歳未満の配偶者とiDeCo
また、閉院時に配偶者が60歳以上65歳未満だった場合も一応記載しておきます。
閉院時に、配偶者が60歳以上65歳未満になることが予め予想されている場合、Cの受給方法を目指し、配偶者も、60歳でiDeCoを一括受給し、その後は、院長にもう5年間頑張ってもらって、配偶者が65歳になるまで閉院を先延ばしにできれば、退職所得控除を復活させることができます。
これが、退職金をフルに受給する最適な方法です。
しかし、体力の限界や、ライフプランで、どうしても、配偶者が65歳になるまで閉院を待てない場合には、Bの受給方法を目指し、配偶者は、60歳でiDeCoを一括受給し、その後は、1年でも閉院をずらして、小規模企業共済を受給するのが、次善の策になります。
国民年金の付加保険料と併用
また、これは盲点ですが、iDeCoと国民年金の付加保険料(400円)は、併用することが出来ます。
ただし、iDeCoの掛金は1,000円単位なので、付加保険料を納付している場合、iDeCoの掛金は、(毎月拠出の場合)月額67,000円(付加保険料と合わせて67,400円)までが拠出限度額になります。
そのため、毎月拠出では、差額の600円が拠出できないことになります。
つまり、25年で、600円✕12か月✕25年=180,000円が拠出できません。
ちなみに、毎月拠出額が67,000円に1,000円下がった場合、25年間で最終リターンは46,430,595円となり、毎月68,000円の拠出時のリターンと比較して、-692,994円となります。
しかし、この間、付加保険料を収めると、400✕12か月✕25年=120,000円
を拠出でき、その分毎年60,000円が国民年金に付加して給付されることになります。
この差額を付加保険料分の年金で埋めるためには
692,994円÷60,000円=11.5年
となりますので、男女ともに、65歳+11.5年=76.5歳以上が損得分岐点となります。
この納められなかった18万円分の控除額、iDeCoの期待リターン額を考慮しても、平均寿命程度に長生きできるのならば、付加保険料を納めたほうがお得となります。
iDeCoの拠出は年単位に変更可能
また、2017年まではiDeCoの拠出は、月単位でのみ拠出限度額が決められていましたが、2018年1月から、年単位で限度額を管理できるようになりました。
これに伴い、年1回以上、任意の月に掛金を拠出すればよくなりましたので、毎月拠出から1年単位などに拠出方法を変更すれば、年816,000円のiDeCo拠出限度額から、付加保険料4,800円/年を差し引いた811,200円のうち、1000円単位で811,000円まで、ぎりぎりに一括、もしくは分割して拠出することが出来ます。
こうすることによって、1年間で拠出できない差額は200円だけと、最小限にすることが可能となります。
一括拠出は、年初には出来ない
ただし、一括して拠出できる限度額は、経過済みの月数分のみです。
未経過月分を前納して拠出することはできませんので、年初の1月に、1年分をまとめて拠出することはできません。
しかし、キャッシュフローの観点から見ると、年末まで手元に運転資金をぎりぎりまで残しておくことを優先すれば、年末の12月に一括拠出する方法も、悪くない一つの方法となります。
年1活払いは、手数料がお得
それに加えて、iDeCoでは、掛金を納付する毎に、1回につき、国民年金基金連合会の手数料が103円かかります。
毎月103円/68,000円=0.15%の手数料と同等です。
納付回数を年1回に減らせば、この手数料を減額できることも、長い目で見ると大きなメリットです。
毎年103円/811,000円=0.012%まで、手数料を減額することが可能です。
開業を期に、年一括払いに変更してみるのも良いでしょう。
拠出可能額をとるか、期待リターンを取るか
このように、毎月払いでは、差額の600円✕12か月=7,200円が拠出できません。
年末一括払いでは、この拠出できない差額は200円まで削減出来ますが、毎月払いで得られるであろう、1年間の期待リターン6%を見過ごすのと同意です。
毎月67,000円で期待リターンを取るか、年末811,000円を一括拠出でぎりぎりの拠出額を取るか、手数料も含めて、どちらが良いかは一長一短です。
年初に前納して、一括拠出できるよう、制度が改正されると一番よいのですが・・・。
むすびに
iDeCoと小規模企業共済の税制がとても複雑で、まとめようと思ったら、思いの外、超長くなってしまいました(笑)
あまりに長いので、後日、内容を分割して、また新たに記事にしようと思います。
しかし、税制やらのお得な制度って、本当に分かりにくいですね~。
改めて、結論をまとめると
となります。
それでは皆さま、よい開業を!
※
上記内容は、2021年1月7日時点での記事です。今後の税制改正により、内容が異なる可能性があります。
まだ勉強中のため、間違いもあるかもしれません。
詳細は、担当の税理士に必ずご確認ください。
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