報道されない、医師のオンコール(宅直)問題について。

f:id:shiro-mameshiba:20190207140403j:plain


こんにちは、shiro-mameshibaです。

 

(一部の)医師の時間外労働上限2,000時間とする話題がニュースになっておりますが、今回は、この時間外労働には含まれていないオンコール宅直)という、医師の超特殊な勤務についてのお話です。

 

 

オンコール(宅直)とは?

 

まず、医師が、夜間休日に、病院内に待機し、入院患者さんの急変や救急患者さんの対応に当たる勤務を当直(または宿日直)と呼びます(第9回 医師の働き方改革に関する検討会より)。

 

当然、これらはすべて実労働として時間外手当が支払われることになっています。

 

(実際には、わずかな当直手当しか支払われないことが多いですが、今回はこの点に触れません。)

 

それに対し、夜間休日に、病院近辺(自宅や市内等、呼び出しから30分以内に病院に来られる場所)で待機することをオンコール(または宅直)と呼びます。

 

必ずしも院内にいる必要はなく、自宅病院近辺であれば、自由に自分の時間を過ごすことができます。

 

しかし、休日であってもオンコールは病院から離れることができないため、旅行などには当然行けませんし、一旦呼び出しがかかれば、深夜であろうが、休日であろうが、速やかに病院に駆けつける必要がある勤務体制です。

 

そして、このオンコール時間については、上記2,000時間以内と定める時間外労働の時間に集計されていません第9回 医師の働き方改革に関する検討会 4Pより )。

 

オンコールの報酬は?

 

オンコールの報酬は、驚愕の0円です。

 

少なくても、shiro-mameshibaがこれまで勤務してきた10程度の病院(民間・公立含む)すべてで、オンコールの報酬はありませんでした。

 

(全国的には、数千円/回支払われる病院もあるそうです。)

 

通常の、勤務時間終了後17:15~翌朝8:30までの15時間15分間(休日の場合には8:30~翌朝8:30までの24時間)が、オンコールで拘束される時間です。

 

いつ呼び出しがあるかわからない状態で、お風呂場でも携帯を常に離さず、休日でも市外に出られず、病院近辺で待機し、深夜でも呼び出しがあれば、眠い目をこするながら車で病院に駆けつけることを半ば強制されれるにも拘らず、その報酬が支払われることが全くありません

 

自分だけならともかく、一緒に寝ている家族も起こしてしまうのは、本当に申し訳なく思っています。

 

ちなみに、shiro-mameshibaはまだ若手(扱いとしては(笑))なので、月の1/3程度オンコール当番であるため、約10日/月=約120日/年=1,830時間/年がオンコールで拘束される時間となります(すべて平日としてカウント。休日24時間オンコールもあるので、実際はそれ以上です)。

 

繰り返しになりますが、これらには、一切報酬はなく、また時間外勤務時間としてもカウントされません

 

つまり、上記2,000時間に単純に合計すると、オンコールも含めた医師の時間外勤務時間は、実質3,800時間/年となります。

 

(しかし、オンコールの拘束時間と通常の時間外労働が重複する部分も当然ありますので、それらを考慮すると、実時間外労働500~1,000時間/年程度となるかと思います。)

 

なぜ、オンコールは時間外労働ではないのか?

 

これには、有名な奈良県奈良病院事件日経新聞高等裁判所の判断があります。

 

詳細は省きますが、産婦人科の医師2名が、当直オンコールの正当な報酬を求めて、奈良県を被告として裁判を起こしたものです。

 

判決では、原告(医師)側勝訴であり、当直部分については報酬が認められましたが、一方、オンコール部分については報酬が認められませんでした

この理由として、判決では、同病院のオンコール体制が、『産婦人科医師らの合意で始まり、管理・運営も同科の医師だけで行われていた』ことなどから、オンコールの医師が病院の「指揮監督下にあったとは認められない」として、原告側の主張を退けた、としています。

 

簡単に言うと、オンコール体制は医師がボランティア精神で自主的に行ってきたことであり、病院の指示がなかった(その根拠を裁判で示せなかった)ため、時間外勤務とみなさない、ということです。

 

 

・・・。

 

どうでしょう?

 

これで納得いく方、いますかね(笑)?

 

オンコールすべてが時間外勤務から除外されるわけではない

 

この裁判の重要な点は、オンコールすべてが時間外勤務から除外される、と判断しているわけではない、という部分です。

 

つまり、オンコールが病院からの指示があった、という証拠を示せれば、裁判では時間外労働だったと認められる可能性を残しています。

 

これまで、shiro-mameshibaの勤務した病院では、オンコール当番表は、ちゃんと印刷された用紙として医師にも病棟にも配れていますし、病院からの指示があったと争う余地は残ると思います(争う予定もありませんが(笑))。

 

しかし、オンコールが病院からの指示がないという判断は、常識的に考えて、ありえないと思うのですが・・・。

 

子育て医師との処遇の問題

 

 ここで問題となるのが、女性医師に多い、子育て中の時短勤務の医師との兼ね合いです。

 

つまり、時短勤務の医師は、当然、オンコール当番が免除されていますが、そもそもオンコールが無報酬であるため、オンコールを行う通常勤務医師と、報酬面で全く変わらないため、不平等となってしまうのです。

 

オンコールで1,830時間/年拘束される医師と、されない医師で、報酬が全く変わらないのです。

 

以前から繰り返していますが、これは、時短勤務の女性医師の問題ではなく、医師の労働実態から目を背け続けている、厚労省医師会国会の責任であり、女性医師に責任は全くありません

 

すべては、医師の異常な労働待遇の問題です。

 

むすびに

 

常識的に考えて、オンコールが勤務ではないのであれば、当然、夜間、休日の呼び出しにこたえる必要も義務も、本来はありません。

 

医師には応召義務がありますが、院内にいない状態で、呼び出しに答える義務もない状態ならば、そもそも応召義務は適応されないと考えられます。

 

日本中の医師が自主的にオンコール態勢を辞めてしまえば、日本の医療は崩壊することでしょう。

 

そして、それができていない現状こそ、医師の良心であり、この資本主義の下で、日本の医療が安価に維持できている理由の一つは、医師の奉仕精神にあることだけは、医療を利用される方には知っておいてほしいのです。

 

 

ただし、これから医師を目指す学生や医大生が、このやりがい搾取の現状を変えようとするならば、それもまた、否定されないでほしいとも思います。