【開業医のためのお金の教室⑤】医師国保について

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こんにちは、shiro-mameshibaです。

 

今回は、開業医の健康保険である医師国保について説明します。

 

医師国保

 

日本は国民皆保険ですので、すべての日本国民が、何らかの健康保険組合に属すことになります。

 

 

勤務医などのサラリーマンであれば社会保険(健康保険)や、主に自営業者や退職後の方が加入する国民健康保険国保)などがあります。

 

開業医の場合、加入条件づきですが、この健康保険に当たるものに医師国保医師国民健康保険組合)があります。(医師以外にも、歯科医師、薬剤師、弁護士など、様々な業種で国保組合があります。)

 

 

通常の国民健康保険と比べると、医師国保には、様々なメリットがあります。

 

 

医師国保の概略は、以下のとおりです。

 

・ 各地区の医師会会員であり、個人事業の場合、従業員数(事業主・青色専従事業者・パート従業員を除く)が5人未満のクリニックに勤務する医師、従業員、その家族。

・ 社会保険のように、保険料の事業者負担がないため、経費削減になる。

・ 所得に関係なく保険料が一定(※一部地域では、所得に応じて保険料増加あり)なため、通常、医師個人であれば、国保より保険料が安い。

・ 開業医の世帯人数が4人以上の場合は、国保がお得となります。

・    開業医の世帯人数が3人以下の場合は、医師国保がお得となります。

 

一つずつ説明します。

 

加入条件

 

まず、医師国保に加入するには、クリニックの院長である開業医が、各地区の医師会会員である必要があります。

 

 

開業医でも、医師会に加入しない方もいます(高額な入会費、年会費、分担される事務作業を避けるため)ので、そのような場合は、医師保険に加入できません

 

 

そして、個人事業であり、従業員数が5人未満のクリニックに勤務する医師、従業員、その家族が加入できます。

 

従業員数は、(事業主と青色専従事業者、パート従業員を除いた)常勤の従業員の数を数えます。

 

 

また、同一世帯内の国保加入者は、全員が、医師国保に加入する必要があります。

 

 

他に勤務しているなどで、社会保険(健康保険)に加入している方(妻など)、社会保険で扶養されている方(子など)は、加入する必要はありません。

 

 

事業者負担なし

 

また、社会保険とは異なり、医師国保では事業者負担はありませんので、その分の経費を浮かせることが可能です。

 

 

ただし、『これは負担する義務はない』、という意味ですので、事業者が半額負担することもできます(いずれにしても、保険料は、事業者がまとめて支払いますので、事業者が半額負担する際には、もう半額を従業員の給与から天引きします)。

 

 

従業員が独身、または共働きなど(従業員世帯の他の家族が社会保険にすでに加入している)で、従業員世帯の医師国保加入者数が少ない際には、医師国保を折半すると、従業員の保険料も、事業者の負担額も、社会保険よりも、むしろ安くなるため、喜ばれるかもしれません。

 

 

加入後の変化について 

 

また、開業当初は従業員数が5人未満であり、その後に従業員数が5人以上に増えた場合でも、問題なく、医師国保を継続できます。

 

 

その他、法人成りした場合は加入資格を失い、社会保険に加入する義務を負いますが、法人成りする前から医師国保に加入していた場合には、そのまま医師保険を継続することが出来ます。

 

 

保険料

 

医師国保の保険料は、地域ごとに異なります。

 

開業医(組合員)、従業員(准組合員)、その家族(家族会員)が加入し、保険料はそれぞれ異なります。

 

 

例として、東京都と大阪府の医師国保保険料をお示しします。

 

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 (東京都医師国民保険HPより)

 

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 (大阪府医師国民保険HPより)

 

 

 どちらも大きな変わりはなく、30代であるなら、

 

月額はそれぞれ

 

開業医(組合員)   32,500~32,700円

従業員(准組合員)  17,500~18,500円

その家族(家族会員) 12,500~15,000円

 

 

となります。

 

保険料は、国保のように、年収によって変化せずに一律です。

(※一部地域では、所得に応じて保険料増加あり。)

 

 

国民保険との比較

 

ここで、一般の国民保険の保険料(横浜市)と比較します。

 

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医師の場合

 

医師であれば、通常、所得は1,100万円を超えますので、上表から、国保の年間保険料82万円、月額保険料68,333円となります。

 

 

医師国保(組合員)のほうは32,500円/月ですので、医師国保のほうが、保険料がおよそ半額弱になる計算です。

 

准組合員の場合

 

また、准組合員である従業員の年収を、看護師350万円、事務員250万円とした場合の、国保保険料は

 

 

看護師(350万円):226,790円/年=18,899円/月

事務員(250万円):161,060円/年=13,421円/月

 

となります。

 

 

従業員(准組合員)の医師国保料は17,500円ですので、看護師では、毎月1,000円ほど医師国保が安く、事務員では毎月4,000円ほど国保が安くなりました。

 

 

医師国保を採用する場合には、事務員の保険料の差額5,000円ほどを、手当として支給してあげたほうが(人員募集の意味でも)良いでしょう。

 

 

家族会員の場合

 

国保(上表)では、保険料は一世帯ごとに算出されます。

 

「世帯の所得金額」、「世帯人数」、「40歳~64歳の人数」によって保険料が計算されます。

 

 

所得が1,100万円を超えると、保険料の上限に達しますので、加入人数に関わらず、国保保険料の増額はありません

 

 

 

一方で、医師国保では、家族会員も保険料がかかります。

 

 

つまり、1世帯あたりの家族数が多い方では、国保の方が安くなるケースもあります。

 

 

4人家族(夫(開業医)、妻(専業主婦)、子2人)の場合

 

例として、4人家族(夫(開業医)、妻(専業主婦)、子2人)だった場合

 

 

医師国保(東京都) 

(夫)32,500円+(妻+子2人)12,500円×3= 70,000円/月

 

国保横浜市

(所得1,100万円以上、加入人数4人)=82万円/年=68,333円/月

 

 

となり、若干ですが、今度は国保のほうが安くなりました

 

 

3人家族(夫(開業医)、妻(青色事業専従者)、子1人)の場合

 

同様に、3人家族(夫(開業医)、妻(青色事業専従者)、子1人)だった場合

 

医師国保(東京都) 

(夫)32,500円+(妻)17,500円+(子)12,500円= 62,500円/月

 

国保横浜市

(所得1,100万円以上、加入人数3人)=82万円/年=68,333円/月

 

 

となり、僅か5,000円ほどですが、医師国保の方が安くなりました。

 

 

従業員の世帯人数が多い場合 

 

また、従業員がシングルマザーの場合や、国保に加入している両親と同世帯の場合など、一世帯人数が多い場合にも、国保より、医師国保の保険料が、かなり高くなってしまいますので、よく検討が必要となります。

 

 

例えば、従業員が3人家族(母(看護師350万円)、子2人)だった場合

 

医師国保(東京都) 

(母)17,500円+(子)12,500円✕2= 42,500円/月

 

国保横浜市

(所得350万円以上、加入人数3人)=316,070円/年=26,339円/月

 

 

となり、毎月1.6万円ほど国保のほうが安くなりました

 

結論

 

つまり、開業医の世帯人数が4人以上の場合は、国保がお得となります。

 

 

それに対し、開業医の世帯人数が3人以下の場合は、医師国保がお得となります。

 

 

または、が他で勤務していて、社会保険に加入しており、が妻の社会保険の扶養となっている場合(医師国保に加入しなくて良い場合)も、医師国保に加入するのは開業医1人で済むため、医師国保がお得となります。

 

 

ただし、先に上げたように、世帯人数の多い従業員(シングルマザーで子ども2人以上、国保の両親)を雇うためには、あえて国保に加入する、というのも1つの方法かもしれません。

 

 

(※一部地域では、医師国保の月額上限がありますので、その場合は世帯人数が多くても、無制限に保険料は増えません。)

 

自家診療の制限

 

また、自分のクリニック内で、従業員や家族を診療することを自家診療といいますが、医師国保では、自家診療は認められていません

 

 

 

これに対して、社会保険医療保険)、国保であれば、自家診療も認められています。

 

 

ここは、医師保険の大きなデメリットですね。

 

 

ただし、自治体によっては、医師国保でも、薬代だけは保険診療でカバーしてくれる地域もあるようです。

 

 

そうであれば、自分でこどもや従業員のお子さんを診察する分には、問題となることもないでしょう。

 

社会保険の加入

 

従業員が5人以下であっても、従業員の同意があれば、社会保険に入ることは可能です。

 

 

その際、事業主(開業医)は医師国保に留まることができます。

 

 

 

ただし、社会保険の加入と、厚生年金の加入はセットですので、事業主には、社会保険の折半(従業員給与の4.89~5.83%)と、厚生年金の折半(給与の9.15%)の負担が重くのしかかります。

 

 

また、配偶者(青色事業専従者)も、厚生年金に加入しなければならないため、第2号被保険者となってしまいますので、iDeCoの掛け金が68,000円→23,000円に下がってしまう、国民年金基金に加入できなくなる、などの、開業医(個人事業主)夫婦の退職金を期待できなくなるという、たいへん大きなデメリットもあります。

 

 

なお、個人事業主時代に医師国保に加入せず、国民保険だった場合、法人成りすると、開業医と配偶者(青色事業専従者)も、自動的に社会保険に加入することになります。

 

その場合、開業医と配偶者(青色事業専従者→役員)も、そのまま社会保険となりますが、社会保険は年収に影響されますので、通常、かなり高額(年収1,000万円以上だと、社保保険料は月額10万円以上~)な保険料が一人ずつかかってしまいますので、大変なコストとなります。

 

 

 

医師国保であれば、収入によらず保険料は一定ですので、社会保険は避けた方が良いでしょう。

 

 

医療法人化を考えているならば、個人事業主時代から、医師国保を継続することが、法人化の前に必須となります。 

 

賞与時の支払いは不要

(2021.4.7追記)

 

また、超重要な情報ですので追記しますが、医師国保は、賞与支払い時には新たな負担が発生しません!

 

 

社会保険協会けんぽなど)では、賞与時にも、給与とは別に、額に応じて、新たに社会保険保険料が発生してしまいます。

 

 

従って、社会保険加入の場合、高額になりがちな役員給与を、賞与払いではなく、定額制の役員給与上乗せ(社会保険保険料50等級以上は負担額変わらない)のみとしたほうがお得になりますが、法人化後も医師国保を継続していれば、賞与払いであっても、負担が新たに増えることはありません。

 

 

ただし、賞与では、厚生年金保険料は新たに支払わなければなりませんので、やはり賞与扱いよりも、役員給与上乗せ(厚生年金保険料35等級以上は負担額変わらない)をお勧めいたします。

 

 

むすびに

 

以上のことから、必ずしも、医師国保が、国保よりも、常にお得とは限りません。

 

 

医師会の加入時点では、入会金で3桁、年会費もそれに近い金額を毎年払う必要がありますので、医師国保の加入というメリットだけでは、医師会加入の負担にペイしません

 

 

しかし、特に小児科の場合は、乳幼児健診や学校検診、学校・園医などの仕事の分担、そして、急患センターのバイトは、医師会に加入していないと回ってこないという事情もあります。

 

 

学校・園医は、業務に対する対価としては決して高いものではないですが、クリニックの宣伝にもなります。

 

 

また、急患センターの月1回以上のバイトは、(後日に記事にしますが)、小児科保険診療加算である「B001-2-11 小児かかりつけ診療料」(と「特定機能加算(80点)」)の算定に、必須要件となっています。

 

 

詳細は後日に記事にしますが、これだけで、新患患者1人ごとに110点(1,100円)~も、診療報酬が変わってきてしまいます

 

 

年間にすれば、数百万円の利益となるでしょう。

 

 

小児科特有の事情ではありますが、まるめで小児科クリニックを開業するならば、医師会に加入し、急患センターの月1回以上のバイトは、必須と言えるでしょう。

 

 

 

このように、医師保険も医師会の加入も、一長一短ですので、それぞれの家族構成なども考慮した上で、加入するかどうかを検討したほうが良いでしょう。

 

 

 

それでは皆さま、よい開業を!

 

 

医師国保のまとめ

・ 各地区の医師会会員であり、個人事業の場合、従業員数(事業主・青色専従事業者・パート従業員を除く)が5人未満のクリニックに勤務する医師、従業員、その家族。

・ 社会保険のように、保険料の事業者負担がないため、経費削減になる。

・ 所得に関係なく保険料が一定(※一部地域では、所得に応じて保険料増加あり)なため、通常、医師個人であれば、国保より保険料が安い。

・ 開業医の世帯人数が4人以上の場合は、国保がお得となります。

・    開業医の世帯人数が3人以下の場合は、医師国保がお得となります。

 

 

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